原神がもたらすもの
時代を変えるゲームというものが度々現れる。
古くはマリオやドラクエ、ポケモンといったゲームであったし、近年ではゼルダの伝説ブレスオブザワイルドやニーアオートマタを数にいれても異論を唱える人はそれほどいないだろう。
兎も角1980年代以降、ゲーム業界を牽引してきたのは日本のメーカーであって、最盛期の勢いほどではないものの、近年でもその燦然たる栄光の歴史を引き継いぎ、大手ゲームメーカーが世界市場を舞台にしのぎを削っている。
しかし、一方で着実にそれに追いつこうという勢力がある。
そう、中国勢である。
と、ワールドビジネスサテライトのような前説だが、今回は原神のお話。
前回に引き続いてR君にリリース初期のごたごたの話とそのゲームが持つ魅力について語ってもらった。
では場所を放課後のポタカに移そう。
今回も原神とゼルダの区別が付かないスタッフを見放さず丁寧にR君が解説してくれた。
「原神って、あのゼルダに似てるゲームでしょ?」
「その辺にしときましょう。ブログに載せられなくなりますよ」
全くだ、今回は完全に進行をR君に任せて私は聞き手に徹する方が賢明に違いない。
「口を滑らせないようにR君から原神の魅力を開設してくれる?」
「その前に、原神のサービス開始当初のゴタゴタの話から入りましょう」
「ゼルダのパクリ疑惑?」
「まぁそれもありました。実際中国本土のゲームショーでは原神を非難するために集まった人々が騒動を起こしたケースもあったそうで、日本でサービスが始まる前からも、お世辞にも評判は良いと言い難いものでした」
「なるほど、評判が悪かったのか。でも、"サービスが始まる前からも"ってことはその後も評判は悪かったってこと」
R君深々と頷き当時のニュースサイトを示して続けた
「当時、というか今もなんですが中国を取り巻く環境は最悪です。トランプ大統領が打ち出した中国ITの締め出し政策、まぁ自業自得なんですが、情報の抜き取りが発覚して多くの中国のIT企業の製品が米国市場から追放されるとともに、世界市場における信頼を失った訳です」
「その中に原神が含まれていたってこと?」
「その通りです」
なるほど、では原神はユーザー情報を抜き出していたことになる。しかし、そんなことをしてなぜ今までサービスを継続できたのであろうか?甚だ疑問だ、ともかくその辺りの事情も聴いてみないとならない
「つまり、原神のソフトウェアにバックドアがあったってこと?」
「うーん、ITに関してそこまで知悉していないので、断言はできないんですが、この騒動の本質というか発端は”行き過ぎた善意”なんですよ」
「”行き過ぎた善意”」
善意で情報を抜き出すようなことがあるのだろうか
「よくわからないんだけど、善意で情報を抜こうとしたってことでいいの?」
「そうなんです。スタッフさんは”チート”ってご存じですか」
「さすがに知ってるよ、ゲームでズルをするやつでしょ」
「ざっくり言えばそうですね。」
でもまず___チートは何かという問いに"ゲームでズルをするやつ"という返事したスタッフの知識を不安に思ったのか、R君はチートの解説から始めてくれた。
「でもまず、チートの歴史を理解しないと今回の原神の事件を理解することは難しいのでそこからお話します」
「かたじけないです」
「いえいえ、そもそもチートはもともとゲーム本体の起動中のソフトウェアに悪さすることが多かったんですが、最近は手口が巧妙化していて、ソフトウェアが消された状態でチートを作動させる、要はゲームの外から悪さをするチートが出てきたんです」
「ということは、原神はパソコンやゲーム機そのものを監視しようとしってことかな?」
「その通りです。つまり、チート対策が行き過ぎた余り、個人宅の庭先に番犬を放っちゃったわけです」
なんとも面白おかしく話してくれているが、実際やられた方は堪ったものではないだろう。銀行や通販サイトの情報がもし見られたかもしれないとなると気が気ではないだろう。
「それは、ちょっと怖いね」
「ちょっとではなく結構怖いですよ(笑)まぁそんなこともあって原神はマイナス発進だったんです」
「サービス開始前も後も結構いろいろあったゲームなのね」
「そうです。ですが、原神の開発会社はその評判を売り上げで吹き飛ばします。通算で1000億円以上の売り上げを記録してソーシャルゲームのセルラン上位に食い込み続けます」
「すごいね」
「まぁこの資本主義の世界、売れれば正義ですよ(笑)」
このグローバルキャピタリズムが蔓延する社会における正義とは何かをまざまざと見せつけてきたこのゲーム新興国の作品はあらゆる意味で歴史に名を刻んだのかもしれない。
「なるほどね、いろいろあったけど、それだけ売り上げるってことは面白いゲームなんだね」
「もちろん、面白いですよ。世界観も素晴らしい作り込みで、僕の推しキャラはタルタリヤっていうんですが...」
「白身魚フライにのってるやつ?」
「言うと思いました(笑)、タルタリヤです。こいつは主人公とは敵対関係にある勢力のキャラクターでありながら、時には協力関係なるという非常に魅力的な物語を持ったキャラクターなんです。他にも登場するキャラクターは皆、優れたデザインで、さらにその魅力を引き立てるストーリーが全員もれなく付いているんです」
なるほど、確かに原神のキャラクターはどれもそれぞれ特徴的な外見を持ちながらも、決して奇天烈な印象ではなく、どこか馴染みやすいような印象を受ける。つまり以前の中国製ゲームの持っていた日本ゲームキャラクターの大幅劣化コピーという印象はほぼ完全に払しょくされているのだ。
余談だが、フランスには畳化(タタミゼ・tatamiser)という言葉がある。これは日本の様式を取り入れたフランス人のことを指してそう呼んでいたのだが、一般に日本化を指すこともある。
そして、原神から感じてのはこのゲームは見事に畳化しているということだ。
日本人の作る日本のゲームより優れた、外国人が作る日本化したゲームが作られる日は近いかもしれませんね、とR君も言っていたが、強ち荒唐無稽という訳でも何のではないかと原神を見て思った。
今後、日本のゲーム関連企業はそう言った日本化した日本ゲームの良さを熟知し使い果たす海外企業との競合を余儀なくされるだろう。
「日本は自分たちの良さも悪さも自分よりよく知っている相手と競合しなくちゃならないんだね」
「そうですね、でもこうした競争がもっと面白いゲームを生み出してくれるだろうという意味でも、原神は非常に良いゲームだと僕は思います。日本にゲーム企業も自分たちがどういう風にカスタマーに見られているのか客観的に見直す良い機会に恵まれたんじゃないですかね。そういった意味で原神は時代を変えるゲームになり得るかもしれないですね」
R君はそう締めくくり、視線をゲーム画面へ戻した。